前回は、エンジンガードを取り付けてもらった日に立ちゴケして、そのあと初めての練習会に参加した話を書きました。
でも、練習会にはしばらく行けないまま。
またひとりで、地道に練習する日々に戻ります。
まだ、片道10キロが精一杯
このころの私の最高距離は、バイク屋さんまでの片道10キロ。
もう少し距離を伸ばしたいな、とは思っていました。
でも、勇気が出ない。
仕事から帰った後、家の近くの誰もいない広い駐車場で日が暮れるまで、孤独な練習をする日々でした。

母からの電話と、意外な「うん!」
午後から有休を取っていた、ある日のこと。
たまたま、母から電話がありました。
「なにかを取りに来て」
何を取りに行ったのかは、もう思い出せません(笑)
実家に行くと、いつも「あれがあるよ」「これも持って行けば」と大荷物になって帰ることが多いのですが、この日はそんなに大きなものではなさそうでした。
リュックで済みそう。
それなら……。
「え、バイクで行ってみようかな」
思わず、そう聞いてみました。
私の予想では、「え〜、まだ危ないんじゃない?」と言われるだろうな、と思っていたんです。
ところが。
「うん!」
意外な返事でした。
「頑張ってみれば」
そんなふうに、私には受け取れる返事だったんです。
え、行けるかな。
でも、少しずつでも前進しないと、なにもうまくなるはずがない。
息子にも「乗って慣れるしかないよ。いける、いける」とよく言われていました。
勇気を出して、実家まで行ってみることにしました。
実家まで30キロ。私にとっては大冒険
実家までは、およそ30キロ。時間にして40分弱。
たいした距離ではないと思われるかもしれません。でも当時の私にとっては、大冒険です。
毎回、出発するときはドキドキします。
わくわくではなく、不安でちょっとだけ重いドキドキ。
でも、通り慣れた道だし、田舎道だから大丈夫。
後ろに渋滞ができそうになったら、左に避けて先に行かせればきっと大丈夫。
そうやって自分に言い聞かせるようにして、出発しました。
もちろん、出発前にできるだけ運転しやすいルートを考えて、遠回りでも安全コースです。
海沿いの道が、嬉しくて
実家までの道のりには、海沿いの道があります。
海沿いをバイクで走れるのが、嬉しくて。
快晴の昼下がり。キラキラする海面。
「うわ~、きれい〜!走れてる〜!」と1人で感動していました。
……といっても、じっくり眺める余裕まではないのですが(笑)
やっとたどり着いて
やっとたどり着くと、母はホッとしていたような気がします。
いちばんホッとしているのは、私なのですけれど。
ちゃんと着けた〜!という達成感。今でも覚えています。
母はバイクを間近で見て「すご〜い」と言っていました。
否定せず、背中を押してくれてありがとう、という気持ちでした。

用事のものを受け取って、また走って帰りました。
走行距離56キロ、そして奥歯の痛み
その日、私はインスタにこう記録していました。
走行距離、56キロ。
そして、なぜか奥歯が痛い。
ずっと食いしばっていたのでしょうか(笑)
週に1回、いつも同じルート
そこからは、とにかく慣れないと、という思いで走るようになります。
もうひとつ理由があって、私のバイクは第5話で書いたとおりキャブ車と言われるもの。時々乗らないとエンジンがかかりにくくなってしまうんです。
だから、1週間に1回は乗ろう。
仕事が終わって、6時ごろから30分ほど。
信号のあるところまで遠回りして国道に出る。田んぼ道に入って、海までの道のり。
怖いから、いつも同じルートです。
一度、嬉しいことがありました。
駐車場に止めて夕日が沈むのを眺めていたときのこと。
帰ろうと思ってバイクのところに行くと、通りがかった人が私のバイクを見て「おっ、VTRじゃん」と一緒に歩いている人につぶやいてるのが聞こえました。
「そう!VTR!いいでしょ!」と心の中で叫びました(笑)
いつしか、義務感で乗っていた
乗る前は、やっぱり重い感じのドキドキ。
帰ってきたら、「今日も無事に帰ってこれた」とほっとする。
……あれ。
これって、楽しいのかな。
いつしか、義務感で乗っているような気がしてきました。
本当に心底バイクが好きなのか。
それとも、ただ夢だったから、夢を叶えたかっただけなのか。
自分の中に、迷いが出てきます。
ひとりで、地道に練習する日々。
倒したらどうなるんだろう、という不安はいつもあります。
頼りたい息子は、遠くに住んでいる。
こんな感じで、1ヶ月以上を過ごしました。
このままでいいのかな。
そう思いながら走っていた、2022年の夏。
次回は、そんな私に転機が訪れる話です。
遠くに住んでいる息子が夏休みで帰省し、初めて一緒にツーリングに出かけます。

